しこほととぎす
しつかりと操縦桿を握りしめ平家螢に跨って来よ
ー「百回忌」よりー
献身というふことばさへいまはもうはつかとなりて死語のさくらよ
於・知覧
ひとりひとりお顔が違ふ特攻のお地蔵さまに私がゐない
妹よ散る前日の兄として百圓遺す貯金通帳
ひらかなのゐしよならははもよむだらうくわうごうへいかてんわうへいか
人形をおぶつて征きし兄ありき吾妹が縫ひし大和撫子
わが くに の とくこうたい が、やみ の ばん に、すすんでいつて てき の
ぐんかん
陰膳の碗の見込の空を飛ぶ彼の戒名に純を忘るな
流螢のゆくへを追へば明滅の間遠くなりて滅の常闇
命をし全くしあらば煙吐きて千代に八千代に旋回しをり
セブンティーン愛機を降りてけふの日の澁谷の街の若きに雑じれ
けふの日のセブンティーンも片道の燃料めきし幻覺茸
けふよりは顧みられず若きらが遂に常しへの醜不如帰
平服の儘の寫眞のほほゑみに今すれ違ふ心地こそすれ
送別のモンぺ、ゲタばき三つ編みが手を振りてゐる 今も振りてゐる